業務改善プログラムが停滞する要因の多くは、変革に対する意欲の欠如ではなく、解決すべき課題の認識そのものが誤っていることにあります。より確実なオペレーション改善の出発点は、現場で実際に何が起きているかを正確に把握することです。そのためには、現場社員の時間の使い方を精緻に理解する必要があります。
Day in the Life of(DILO)分析は、そのための体系的な手法です。作業者、スーパーバイザー、営業担当者などの現場人材が、1日の中でどのように時間を配分しているかを可視化することで、認識されている業務実態と実際の行動との差異を明らかにします。多くの組織において、この差異は想定以上に大きく存在しています。
見えない生産性ロスの構造
従業員が大半の時間を付加価値業務に従事しているという前提は、オペレーション管理において最も一般的でありながら、同時にコストの大きい誤解の一つです。Gallupの「2026 State of the Global Workplace report」によると、2025年の世界の従業員エンゲージメントは20%まで低下し、2020年以来の最低水準となりました。これに伴う生産性損失は、世界全体で年間10兆米ドル規模に達すると推計されています。
しかし、生産性の低下は通常の業績レポートだけでは可視化されません。現場では、目標貢献度の低い業務への時間配分、スーパーバイザーによる事後対応型のマネジメント、営業担当者の非営業活動の増加といった形で顕在化します。
DILO分析では、訓練を受けた観察者が現場に入り、一定間隔で業務行動を記録します。自己申告や集計データに依存することなく、実際の時間配分を構造化して把握することで、生産性が創出されている領域と損失が発生している領域を明確化します。
DILO分析が明らかにする3つの視点
DILO分析は、対象となる従業員タイプごとに異なる診断視点で設計されます。
作業者DILO
現場オペレーターが1日の時間をどのように配分しているかを明らかにします。具体的には、直接作業と、作業準備、移動、管理業務、待機時間といった非付加価値活動の間で、時間がどのように分配されているかを可視化します。製造業、石油・ガス、鉱業などの資本集約型産業においては、わずかな時間配分の改善でも全体の生産性に大きな影響を与えます。
スーパーバイザーDILO
能動的なマネジメントと受動的な対応行動の差異に焦点を当てます。能動的なマネジメントとは、指示出し、進捗確認、コーチングなど、意図的にチームパフォーマンスを高める行動を指します。一方で、問題発生後の対応に追われる受動的なマネジメントは多くの組織で一般的に見られ、結果として本来発揮できるはずのパフォーマンス向上余地を制約します。
営業担当者DILO
顧客接点を持つ営業担当者が、実際にどのように時間を配分しているかを分析します。具体的には、積極的な販売活動と、アカウント管理や受注処理などの非営業活動とのバランスを可視化します。フィールドセールスが顧客対応にどの程度の時間を割いているかを把握することは、チャネル戦略や営業投資判断の重要な前提となります。
これらのDILO分析は、標準化された時間コードに基づき、一定の時間間隔で観察・記録されます。これにより、個人・チーム・拠点といった異なる階層での比較分析が可能になります。
分析から行動変容へ
DILO分析の本質的な特徴は、単なる時間測定に留まらず、その後に構造化された対話プロセスが実施される点にあります。従業員には、自身が1日をどのように過ごしていると認識しているか、また理想的にはどのような時間配分で業務を行いたいかを確認します。この対話を通じて、現状と理想のギャップを本人がどの程度認識しているか、また行動変容の余地がどの程度存在するかを明らかにします。
重要なのは、DILO分析が個人評価を目的とした手法ではなく、組織レベルの診断を主眼としている点です。本質的には、従業員のパフォーマンス発揮を阻害している業務設計や環境要因などの構造的な制約を特定することを目的としています。
こうした根本原因が明らかになった後、組織は業務設計の見直し、スーパーバイザーの行動設計の再構築、リソース配分の最適化といった領域において、よりターゲットを絞った改善施策を設計することが可能になります。Redzoneの「2025 Productivity Benchmark Report」によると、1,500以上の製造拠点および5,000万件以上の生産データ分析の結果、構造化された継続的改善と現場エンゲージメントを組み合わせた工場では、90日以内に平均26%の生産性向上が確認されています。
こうした改善を持続させるためには、スーパーバイザーおよびマネジメント層における行動習慣の定着に加え、活動プロセスと成果の両面を継続的にモニタリングし、改善を支えるガバナンスを構築することが不可欠です。
可視化から確実な改善へ
オペレーションマネジメントの仕組みが高度であっても、その前提が事実ではなく仮説に基づいている場合、戦略と実行の間に存在するギャップは解消されません。DILO分析は、現場における実際の時間配分、生産性が失われている領域、そして必要な行動変容を明確にするための実証的な基盤を提供します。
オペレーショナルエクセレンスの実現において、現場の1日を正しく理解することは付随的な分析ではなく、変革そのものの出発点です。